校長のことば
校長 小島 克也
  

  平成30年4月1日に第30代校長として着任いたしました。

 定時制では、中学校時代に大きな挫折を経験し、自信を持てないまま入学して来る生徒が少なからずいます。でも、高校に入ったらこれまでと違う自分になりたい、成長したいという思いは、全日制の生徒以上に強く持っています。

 浦高定時制は、そんな若者一人一人を大切にして教育を行っています。彼らに自信とプライドを持たせたい。その一心で生徒に相対しています。

 「浦定チャレンジ」という言葉があります。生徒には、どんな小さなことでもいいから、何かにチャレンジしようと言っています。昨年度は、ボランティア活動の全国発表会に唯一の定時制生徒として参加したチャレンジャーもいました。

 「社会的に自立する力の育成」これが最終目標です。そのため、基礎学力の定着を第一に考え、日々の授業の充実に教職員一丸となって取り組んでいます。それを土台に、協調学習をはじめとして、生徒に考えさせ、表現させる授業が随所に展開されています。きちんとしたあいさつ・マナーの定着にも力を入れています。また、「NPOカタリバ」「若者サポートステーション」等の外部機関との連携による公共心の向上やキャリア教育の充実も図っています。

 新たな定時制教育に挑戦し続けている浦高定時制へのご支援ご協力をよろしくお願いいたします。


校長講話(定)

校長講話(定)

令和元年度卒業式式辞(定)

卒業おめでとうございます。

 君たちのご家族や後輩も一緒になってお祝いしたかったので、このような縮小した形での卒業式に無念の情を禁じ得ませんが、私達教職員一同、心からの祝福とエールを込めて、君たちを送り出したいという思いでいっぱいです。

 

 改めまして、ただ今、卒業証書を授与いたしました、8名の皆さん、卒業おめでとうございます。

 皆さんは、浦高定時制に入学以来、様々な苦難があったことでしょう。その苦難を乗り越えて卒業にたどり着いた皆さんの頑張りに、心から敬意を表します。

 昨年の卒業式での私の式辞のスタイルを覚えていらっしゃるでしょうか。私は、全員に同じ言葉を送るのではなく、卒業生一人一人にそれぞれ異なるメッセージを送りました。これは定時制の良さですが、各学年が少人数であるため、校長であっても一人一人の生徒の顔と名前が一致するばかりでなく、君たちの内面までもかなり理解することができています。ですから、昨年、卒業式で何を話そうかと考えたとき、全員に同じ話をするのでなく、一人一人に個別なメッセージを送りたいと思い、そうしました。今年も全く同じ気持ちです。私の脳裏に浮かぶ君たち四年生は、学年全体というより、やはり、個性豊かな一人一人の顔なのです。今年も、昨年と同じように、一人一人にメッセージを送り、式辞としたいと思います。

 先ほど呼名した順で行きます。名前を呼ばれたら、先ほどと同じように元気に返事をしてください。

 

A・K 君

 君は、昼間、正規の仕事をこなしながら、夜、よく頑張って学校に通い続けました。

 4年生になってからは男気を発揮してい生徒会長としてもよくやってくれました。何度も褒めているけど、文化祭の入場門は君がいなければできなかったし、君の人柄がよくなければ周りはついてこなかったでしょう。君の人懐っこい笑顔は、君に初めて会った人、誰をも引き付ける魅力があります。

 君の人柄のことで言えば、もう一つ。今年1月の君との校長面談の日。君は、その日の夜、フィリピン行きのフライトがあったにもかかわらず、校長面談だけのために夕方その時間だけ登校してくれました。学校に「面談にいけません」と連絡する選択肢もある中、時間通り来てくれたことに私は感激しました。その律義さ、礼儀正しさは、社会人としても将来必ず君の評価を高めることになるでしょう。

 浦定での経験を礎に、社会人として一層の活躍を期待します。頑張ってください。

 

I・H 君

 君はスポーツマンで、球技大会ではいつもはつらつとした姿が印象的でした。

 また、私が本校に着任する前の話ですが、1年生の時の農業体験で、初めての人たちと生活したことや、2年生の時にボランティアアワードに参加しスーパーアリーナで発表したことは、君にとって大きなチャレンジでありました。十分納得のいく成果は上げられなかったとしても、失敗の中から学ぶことがあるという経験を積んだことは決して軽いものではありません。これからも、人と協力して何かを成し遂げる場面に積極的に参加して欲しいと思います。

 4月からは、専門学校に進学し、コンピュータの勉強を始めます。AIは、近い将来人間生活の重要な役割を担っていくことになります。人がAIに振り回されるのでなく、逆にAIを上手に活用して豊かな生活を送れるような社会となるよう、その先導となって頑張ってください。

 

O・R 君

 最後の最後まで心配をかけてくれましたね。君も、先生方に迷惑をかけたという気持ちはとても強いと思います。しかし先生方は、君が浦定で十分力を発揮できなかったことを残念に思うことよりも、これから君がどれだけ精進し、社会に貢献できる人材に育ってくれるかに関心を持ち、多くの期待を寄せています。

 そう感じさせる光が君には備わっています。いつもニコニコしていて人当たりがとてもいい。話していて人を嫌な気にさせないところは、君のとてもいいところです。バイト先での人間関係もとてもいいと聞いています。総合的な探究の時間の発表でも、君は高い能力を持っていると私に感じさせてくれました。

 君は、人生の目標さえ定まれば、頑張り切れる人間だと私は思っています。卒業後は、調理師を目指して専門学校に進みます。素晴らしい目標じゃないですか。君が立派な調理師になったという報告をぜひ耳にしたいと先生方は思っています。中学校、高校と世話になった先生方の思いを決して忘れずに夢に向かって頑張ってください。

 

O・Y 君

 君は、誰もが認める優しい人チャンピオンです。決して教室の中で目立つような立ち振る舞いはしないけれども、陰で友人を支える貢献度は、誰よりも優れていました。出席不良の生徒がいれば学校に来るように励ましの言葉をかける、自分のことはさておいても友人の勉強に付き合ってあげる、などなど、色々な場面でクラスメートを救ってくれました。今の4年生のクラスが暖かな雰囲気でいられるのは君がいたからです。

 君は将来介護の仕事に就くことを目指します。君にぴったりの職業ではないでしょうか。私もこの先、年老いた時、君のような介護士に巡り合えたらとても幸せだと思います。介護の仕事は決して楽ではありませんが、一生懸命勉強し、君の介護を必要とする人たちからたくさんの「ありがとう」を言ってもらえるような介護士になれるよう頑張ってください。

 

K・T 君

 大学合格おめでとうございます。

 君は、コツコツと4年間本当によく勉学に励みました。

 毎日毎日ほかの生徒よりも5時間以上も早く登校して、一人で黙々と勉強している姿を見るたびに、君を心から応援していました。

 君は努力することができる人です。努力は才能の内という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、努力ができるというは、それだけで素晴らしい才能なのです。ですから、これからも歩みを止めず、イチロー選手のように「僕は努力の天才だ」と言えるほどの努力をこれからもしてください。

 この春から大学生となりますが、長い人生まだ始まったばかりです。過去は変えられませんが、未来は自分の力で変えられるんです。限りない可能性を持った君の未来に幸多かれと心から祈っています。頑張ってください。

 

T・H 君

 君は、浦定での4年間を振り返って一番得たものは何だと自分では考えますか?アルバイトをたくさんして、そこで人間関係を学んだと思いますし、苦手な教科でもあきらめずに取り組んで少しずつ理解できた喜びもあったでしょう。これらの経験は人生においてとても大切な財産です。でも君はもう一つ、それに劣らず、というよりも、どんなことよりも抜きん出たかけがえのない宝物を手にしたのではないでしょうか。それは、O君という無二の親友です。O君は、君のことをいつも気にかけ、君がつらい時に寄り添って励ましの言葉をかけ続けてくれたのではないですか。もちろん、逆に君がO君を助けてあげたこともたくさんあったろうと思います。友の存在がどれだけありがたいものか心底感じた4年間だったのではないかと思います。君たち二人の間で育んだ友情こそが、君の浦定での4年間を意味ある年月にしたと私には思えます。

 卒業後は、二人別々の道を歩みますが、これからも親友のままで、お互いのつらさを共有し、励まし合ったり、喜びあったりの関係を是非持ち続けてください。

 一日も早く自分に合った仕事を見つけ、そこで活躍できるよう頑張ってください。

 

H・Y 君

 君は、中学校で部活内のトラブルで不登校を経験し、浦定では、3年生で体調を崩し休学から原級留置となり、私には想像もできないような、とてもつらい10代を過ごされたのではないかと思います。でも、1年余計にかかりはしましたが、復学後は、しっかりと登校し、最終学年の今年は、欠席はたったの三日だけと改善して、今日ここに晴れて、高校を卒業することになりました。そして、そのような苦しい中にあっても、学業をおろそかにせず、優秀な成績を収め続け、このたび、埼玉県高等学校定時制通信制教育振興会表彰を受賞しました。とても立派です。本当におめでとうございます。

 総合的な探究の時間で、数学の発表に際し、グループをよくまとめるというリーダーシップも君は持ち合わせていました。そのことは、私にとってとてもうれしい発見でした。

 浦定では苦労も多かったことと思いますが、それは決して無駄な経験ではなかったという風に思って欲しいと思います。

 最後に、多摩大学の田坂広志教授が自分の本の中で述べていた次の言葉を君に送ります。

 「人生において我々に与えられる苦労や困難は、自分という人間を成長させるためものであり、その苦労や困難には、すべて深い意味がある。それゆえ、その意味を考えて歩むとき、われわれは大きく成長する。その人生観を持つべきだ。」

 苦労をプラスに代えて、頑張ってください。

 

M・T 君

 君は、数学が得意ですね。O先生も君がいたから数学の授業はクラスで教えていて楽しかったと言っています。コンピュータも得意ですね。自分でコンピュータを作ってしまうなんで機械音痴の私には想像もできません。一方で、人前で話すことが苦手と私に言っていましたね。でも、心配いりません。世の中、人前で話すのが得意な人の方が圧倒的に少ないんですから。おそらく、君は、先日の総合的な探究の時間の発表では、さぞかし緊張したことでしょう。膝が震えていたのではないですか。事前に私に話したいと言っていた内容を緊張のあまり本番ではすっ飛ばしてしまいましたね。でも、私は、心の中で君に盛大な拍手を送っていました。よくやったと。君自身は納得はいかなかったかもしれないけれど、君にとっては大きな経験だったと思います。

 これから、専門学校に行き、社会人になっていけば、人前で話すこと以外にも、様々な事柄で今以上に高いハードルが課されます。それを一つ一つクリアーしていけば、成長という大きな二文字を手にすることができます。君に言いたいことは一つだけ。困難から逃げるな。健闘を心から期待します。頑張ってください。

 

 以上で、皆さん一人一人へのメッセージは終わります。皆さんが明るく温かい浦定の雰囲気を作ってくれたことへの感謝の気持ちと皆さんの未来への期待を込めたメッセージとして、心にとどめてくれたら幸いです。

 

 結びに、卒業生の皆さんにおかれては、令和という日本の新しい時代を、将来の予測が難しいこの現代社会の荒波を、自信をもって乗り越え、夢叶うことをお祈りし、式辞といたします。

 

 令和二年三月十六日

 埼玉県立浦和高等学校長 小島克也

 

 

平成31年度入学式式辞(定)

 新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。

 また、保護者の皆様におかれましても、お子様のご入学おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。

  本校の定時制課程は旧制の敬和中学校として昭和16年に開校しました。昭和23年に、現在の校名である埼玉県立浦和高等学校定時制として再出発しました。これまで、2000人を超える卒業生を世に送り出す、歴史と伝統のある学校です。開校から78年間の長い間には、幾多の困難な社会状況があったにも関わらず、その時代時代の生徒たちはこの浦高で学び、着実に実力を身につけ、社会へあるいは上級学校へと巣立ってまいりました。

  そして、今年、皆さんは、平成から令和へと変わるこの時代の転換期に、浦和高校定時制課程の門をくぐりました。皆さんを心から歓迎したいと思います。

 今、社会は大変難しい局面に入っています。かつて経験したことのない少子高齢化に直面しています。特に働き手の人口がますます減少し、日本の経済発展を今以上に望むことは難しくなっています。また、グローバル化が進展し、多くの日本企業は、コストの安い海外に拠点を移しています。その結果、日本国内に雇用の空洞化が起き、多くの失業者を生み出す原因の一つになっています。そして、それに輪をかけるように、人口知能の発達があります。進化した人工知能の出現は、より暮らしやすい社会を作ってくれる半面、人工知能は、「人間の職業を奪うのではないか」「今学校で教えていることは時代が変化したら通用しなくなるのではないか」といった声とともに、子供たちの将来を不安にさせています。

 このような変化が激しく、未来の予測が難しい時代にあって、いやむしろ、このような難しい時代であるからこそ、我々はつねに、希望を持って、前向きに生きていかなければなりません。

 我々には、皆さんが、卒業後、この時代の荒波を乗り越え、社会を生き抜いていくことができる力、別な言い方をすれば、自立するために必要なものを身につけさせる責任があります。

 自立するために必要なものとは何か。たくさんあると思いますが、ここでは、私が最も必要と思う2点をお話しします。

 まずは「基礎学力を身につける」ということです。いかなる職業に就くにしても仕事をする上でそのベースとなるものが、基礎学力です。その中心は、各教科の基本的な知識技能です。これを身に付けるのがまず一番ですが、でもこれだけでは不十分です。単なる暗記や決められたことの繰り返しだけでは、コンピュータにかないません。教科の基本的な知識技能に加えて、そこから、ほかの人たちと力を合わせ新しいものを創造していく思考力応用力が必要となります。浦高の授業は、この思考力応用力の育成に力を入れています。そのため、授業の様々な場面で、対話や協働的な活動を取り入れています。とても活気のある授業です。楽しみにしていてください。

 自立するために必要なもう一つの大切なものがあります。それは「徳を高める」ということです。この事について、日本を代表する電機メーカーの「パナソニック」を一代で築いた松下幸之助は、八十五歳の時に次のような主旨の言葉を残したそうです。

「徳を高めることは、私にとって今一番必要なことである。私の今の立場で望むものは、技術でもなければ商売の手法でもなく徳の高い人間になることである。徳というものは漠然としているけれど、人間にとってこれが何よりも一番の宝である。技術も大事であるし、学問も大事であるが、徳を持たずしては学問も技術も成り立たない。」

社員から絶大な信頼を受け、数々のヒット商品を生み出し、日本中の顧客に支持された松下幸之助でさえ、晩年に至ってもなお、自らの徳性に満足をしていなかったのです。 

皆さんにも同じことが言えます。自立すると言っても、人は一人では生きていけません。人と人が信頼し合い、尊敬しあい、協力し合ってこそいい人生が送れるのです。みんなが「あの人となら一緒に仕事をしたい」そして職場で部下を持つようになれば、「あの人の言うことならついていきたい」と言われる人間になることが大切です。そのためには、自分の内面を磨く必要があります。私はそれを「徳を高める」と表現しました。

 皆さんには、自立した人間になるために、是非「基礎学力を身につける」と「徳を高める」の二つを心がけて欲しいと思います。

 それでは、この二つについて、具体的に何をしたらいいかについてお話しします。

 まず、「基礎学力を身につける」ことについてですが、これは何と言っても、毎日の授業を大切にしましょうということです。ただ、全日制の生徒のように、自分のやりたいことだけに集中できるというのとはわけが違います。皆さんの中には、昼は仕事を見つけて働こうと思っている人がいると思います。実際にやってみると思いのほか大変であることが分かるでしょう。疲れて眠い時もあるでしょう。学校に来ることすら辛い時もあるかもしれません。でも、そんな時であっても、昨日よりも少しでも成長しようという強い意志で頑張り抜いてください。頑張っても成果が見えないことももちろんあります。でも、あきらめたらそれでおしまいです。あきらめずにコツコツと積み上げれば目に見えなくても少しずつ体の中に力がたまっていきます。ぜひ、毎日授業に出続けることを行動目標にしてください。

次に、「徳を高める」についてですが、これも普段から心掛けていないと、自然と徳が身に付くことはありません。ただ、徳を高めることを普段から心掛けよ、と言われてもピンと来ないかもしれません。でも、ちょっとした心がけでいいのです。自分から挨拶をする。校舎の床に落ちているごみを拾う。電車、バスでお年寄りや体の不自由な人に席を譲る。落し物を届ける。そんな、小さな親切を積み重ねるのです。大切なのは、人が見ていようがいまいが、他人が心地よく過ごせるように行動することです。このような行動を積み重ねることで、皆さんの徳性は確かに磨かれたものになっていくと確信します。

 さあ、皆さんは、今日、自立する人間になるための第一歩を踏み出しました。明日から、その目標に向かって高校生活を歩み始めます。私たちは、その歩みに寄り添い、時にコーチとなり、時に応援団となり、皆さんを支えてまいります。ともに頑張っていきましょう。

 最後に保護者の皆様方におかれましては、重ねてお子様のご入学おめでとうございます。ここまでお育てになるにあたっては、いろいろなご苦労があったと存じます。本日確かに大切なお子様をお預かりしました。

私ども教職員一同、お子様の成長を願い、自立した人間となって社会に巣立っていけますよう、責任を持って指導してまいります。お子様一人一人の健やかな成長と、夢の実現に向けて、家庭と学校が信頼関係を築き、同じ歩調で取り組んでいきたいと思いますので、どうぞご支援ご協力をお願いいたします。

 新入生の皆さんにとって、人生におけるこの貴重な4年間が、新時代「令和」の意味する通り、一人一人の希望が花開き、実り多いものとなることを祈り申し上げ、式辞といたします。御入学おめでとうございます。

 平成三十一年四月八日

   埼玉県立浦和高等学校長 小島 克也