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校長講話

令和三年度入学式式辞

 正門前の桜も花から新緑へと装いを変え、まさに若い命が躍動する季節がめぐってまいりました。春本番を迎えたこの良き日に、令和三年度埼玉県立浦和高等学校入学式を挙行できますことは、本校関係者一同の大きな喜びでございます。

 

 ただいま入学を許可しました357名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。皆さんは、新制高校となって第七十六回の浦高生です。在校生、教職員を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。

 そして、保護者の皆様には、本日ご臨席いただくことができませんでしたが、皆さんの浦高入学を何よりも喜んでくれていることと思います。

 

 本校は明治二十八年、埼玉県第一尋常中学校として浦和の鹿島台の地に開設され、明治から大正、昭和、平成、そして令和と、126年の歴史を刻む県内屈指の伝統ある進学校です。これまで三万五千人を超える卒業生を世に送り出し、旧制中学校以来の校訓である「尚文昌武」、文を尚び武を昌んにす、を教育理念に掲げ、これからの時代の求めるリーダーを育てる教育を行ってきています。

 

 さて、今世界は気候変動など地球自然環境の急激な変化に見舞われています。人類による地球資源の開発等に伴い、地球の温暖化がかつてないスピードで進んでいます。少子高齢化や地方の過疎化、生産年齢人口の減少などの社会課題も極めて深刻な問題です。AIやIoT、ビッグデータといった新たな価値の創造により、世の中の価値観も生活スタイルも大きく変わりつつあります。二十一世紀を迎えて久しい今日に至り、ますます先がどんな時代なのかが見えない、劇的な変化の只中にあるといっても過言ではありません。

 そこに、新型コロナウイルス・パンデミックという過去百年に人類が直面したことのない緊急事態がおこりました。「民主主義」や「市場経済」を根底から揺るがす危機とさえ言われる事態です。

  浦高の先輩である佐藤優氏は、最近の著書で「新型コロナウイルスの全世界的流行によって二十世紀の残滓は消え、二〇二〇年から本当の二十一世紀が始まった、というのが私の作業仮説」であるとしたうえで、「新しい世紀において、新自由主義が世界を覆いつくすのか、そんなグローバリズムへの反動が来るのか、あるいはヨーロッパで先行して見られる環境ファシズムみたいな運動が力を持つのか、もしくは全然違った勢力地図が出来上がるのか、そこはわからない。そんな海図なき時代こそが新しい世紀の特徴なのかもしれない。」と述べています。

  つまり、現代を生きる我々は、こうした様々な危機を乗り越えて、新たな世界や社会を構築していかなければならないということです。では、その役は誰が引き受けるのか。もちろん、今まさにその任にある大人世代は、その責任を果たすべく力を尽くしています。でも、海図なき時代の新たな世界や社会の構築には、文字通り限りない情熱と覚悟、そして何よりも新しい発想が求められることになるでしょう。だとすれば、未来に向かって新しい時代を切り拓き、新しい時代の価値を創造していく役割は、これからの将来ある若い人たちが担うしかない。これから先の時代は、皆さんのような若い人に託されています。

  この役割が担えるかどうかは、柔軟な頭で新しいものの見方ができるかどうか、秘めたる情熱と豊かな教養を持って、たくましく豊かに成長していくことができるかどうかにかかっています。ですから、皆さんには三年間の浦高生活で、ぜひともその土台を築き上げてもらいたいと思います。

 

 そこで、今日はそのための心得をお話しします。それは、「基本」をしっかり身に付けよ、ということです。

  ここでいう「基本」とは、皆さんがこれからの人生を切り拓いていくための土台となるものすべてであり、知識とスキルの両方を含みます。広い意味での「教養」あるいは「リベラルアーツ」といってもいいものです。よく言われるように「自分の頭で考える」ことの大切さは、皆さんもわかってはいるでしょう。でも、勉強一つとってみても、何をやるか、どうやるか、どこまでやるか、といったことを、自分なりに考えてやってきた人は、あまりいないのではないか。周りの言うことをよく聞いて、言われた通りにやってきたという人が多いのではないか、という気がします。

  「自分の頭で考える」には、物事を正しく判断するために思考を深めていけなければなりません。それを可能にするには、十分な語彙力と幅広い基礎的な知識が必要となります。そして、この知識や思考力の獲得には、忍耐力や意欲といった目標の達成に関わるスキルがものをいいます。また、ヒトは社会的な生き物です。様々な関わりの中で正しく判断し行動するには、協調性や共感性といった他者との協働に関わるスキルが必要不可欠です。さらに、豊かな心をもって人生を切り拓いていくには、自尊心や自信といった情動の制御に関わるスキルが欠かせません。これらは「非認知的スキル」といわれるものですが、身に付けておくべき大切な基本です。

  高みに上るための階段も、土台がしっかりしていないと何かのはずみで倒れてしまいます。階段を支える土台は、広いすそ野を持ち、強固でなければなりません。その土台をつくり上げるのが、これからの高校生、大学生の時期なのです。ですから、勉強はもちろんですが、それ以外の興味や関心のある様々なことに、皆さんはチャレンジするべきです。短い射程で結果ばかりを求めるのではなく、人生という長い射程で物事を判断し、高校生という時期に見ておきたいもの、経験しておきたいもの、身に付けておきたいものにチャレンジすべきです。失敗もするかもしれない。挫折もするかもしれない。でも、その経験も含め、皆さんのこれからの人生を切り拓いていくための土台になるのです。

 

 浦高には、皆さんがこれらの「基本」を身に付けるための最高の環境が用意されています。浦高での生活すべてを楽しんでもらえさえすれば、高校生として最高レベルの知識はもちろんのこと、非認知的スキルを含む「基本」が身に付く環境、すなわち皆さんを大人へと鍛えあげる環境がここにはあります。ですから、皆さんにはとにかく浦高生活のすべてを思い切り楽しんでもらいたい。

  ただし、楽しむためにはコツがあります。

  一つは浦高生活を楽しむための必要条件、自分でタイムマネジメントができることです。やりたいこと、やるべきことがたくさんある皆さんには、様々なスパンでそれらを適切に整理できなければなりません。もちろん、はじめは難しいでしょう。でもやりながら自分なりのマネジメント法を見つけ出してもらいたいと思います。

 二つ目は浦高では仲間とともに学び、切磋琢磨すること。高校でも大学でも、学びの環境として大事なこととして、「誰と学ぶか」があります。高校・大学選択は、すなわちどんな生徒・学生集団の一員になるかを選ぶことでもあるのです。浦高を選んだ皆さんは、ここで出会った仲間たちと遊び、教え合い、議論し、励まし合い、助け合うことができる。その生活こそが、皆さんにとってかけがえのない成長の場となります。

  三つ目はこの環境を活かすコツ、浦高生活すべてに全力で取り組むことです。全人教育や教養主義を標榜している本校は、勉強はもちろん、伝統の学校行事も、部活動も、どれも皆さんが本気でチャレンジするにふさわしい、質と難易度を誇っています。一人ではあまりにも過酷で困難に思えるものも多くあります。でもそれは、「知・徳・体」をバランスよく鍛えてもらうための仕掛けです。目先の成果ばかりを追って小さくまとまることなく、何十年も先を見据えてとことんチャレンジせよというメッセージです。もっとやれる、もっと完璧に、という気持ちで取り組んでもらいたいものです。

 

 最後になりますが、オンラインでご覧の保護者の皆様におかれましては、重ねて入学のお慶びを申し上げます。本日より、大切なお子さまを浦高生としてお預かりし、責任をもってお子さまの力をしっかり伸ばしてまいります。

  私たち教職員は、浦高の教育に誇りをもって全力で日々取り組んでおります。浦高が持つ輝かしい伝統と、これまでに育んできた様々な仕掛けを駆使し、必ずや少年のお子様たちを、心身ともに逞しい大人の青年へと導いてまいります。是非、浦高の教育力を信頼していただくとともに、何かございましたら遠慮なくご連絡をいただき、家庭と学校とでお子さまの成長に向けて、歩調を合わせて取り組んでいけたらと思っております。何卒、御支援と御協力をお願いいたします。

 

 それでは、皆さんが浦高生活を思い切り楽しみ、たくましく成長してくれることを心から願い、私の式辞といたします。

 

令和三年四月八日

埼玉県立浦和高等学校長 水石 明彦