校長講話(定時制)

校長講話(定時制)

令和三年度入学式式辞

 正門前の桜も花から新緑へと装いを変え、まさに若い命が躍動する季節がめぐってまいりました。春本番を迎えたこの良き日に、保護者の皆様方のご臨席を賜り、令和三年度埼玉県立浦和高等学校定時制課程入学式を挙行できますことは、本校関係者一同の大きな喜びでございます。ご臨席いただきました保護者の皆様に、厚く御礼を申し上げます。

 

 ただいま入学を許可いたしました16名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。在校生、教職員を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。

 また、保護者の皆様方におかれましても、お子さまのご入学おめでとうございます。心よりお慶びを申し上げます。

 

 本校の定時制課程は、旧制の敬和中学校として昭和十六年に併設され、昭和の戦中・戦後を経て、平成、そして令和と、八十年の歴史と伝統を有しています。これまでに二千人を超える卒業生が、それぞれの時代の様々な社会状況の中、この浦定で学び、着実に実力を身に付け、社会へあるいは上級学校へと巣立ってまいりました。

 

 さて、今世界は気候変動など地球自然環境の急激な変化に見舞われています。人類による地球資源の開発等により、地球の温暖化がかつてないスピードで進んでいます。少子高齢化や地方の過疎化、生産年齢人口の減少などの社会課題も極めて深刻な問題です。AIやIoT、ビッグデータといった新たな価値の創造により、世の中の価値観も生活スタイルも大きく変わりつつあります。二十一世紀を迎えて久しい今日に至り、ますます先がどんな時代なのかが見えない、劇的な変化の只中にあるといっても過言ではありません。

そこに、新型コロナウイルス・パンデミックという過去百年に人類が直面したことのない緊急事態がおこりました。「民主主義」や「市場経済」を根底から揺るがす危機とさえ言われるような事態です。

  浦高の先輩である佐藤優氏は、最近の著書で「新型コロナウイルスの全世界的流行によって二十世紀の残滓は消え、二〇二〇年から本当の二十一世紀が始まった、というのが私の作業仮説」であるとしたうえで、「新しい世紀において、新自由主義が世界を覆いつくすのか、そんなグローバリズムへの反動が来るのか、あるいはヨーロッパで先行して見られる環境ファシズムみたいな運動が力を持つのか、もしくは全然違った勢力地図が出来上がるのか、そこはわからない。そんな海図なき時代こそが新しい世紀の特徴なのかもしれない。」と述べています。

  つまり、現代を生きる我々は、こうした様々な危機を乗り越えて、新たな世界や社会を構築していかなければならないということです。そして、皆さんは新しい発想で構築されるであろうこれから先の社会を、希望をもって前向きに生きていかなければなりません。その土台づくりをこれから四年間の浦定生活でしてもらうことになります。ですから、浦定での生活では、仲間とともに学び、積極的に関わり合い、そして思い切り楽しんでほしいと思います。また一方で、社会の厳しさをしっかり認識しながら、卒業までに社会で自立できる地力を身に付けてほしいと思います。

 

 今日から浦定での生活が始まります。そこで、生活していくにあたっての心得をお話しします。

  一つは、「希望を持つ」ということです。これから先の人生では、もしも困難な状況、苦しい状況に陥っても、皆さんはそれを自分で乗り越えて道を開いていかなければなりません。そのためには、困難にも負けない、諦めない気持ちを持ち続けることが必要です。失敗は誰にでもあります。ですから、恐れることはありません。むしろ、失敗によって人は成長するのですから、失敗することはとても大切なことです。

  皆さんは、バスケットボール界の神様と言われたスーパースター、マイケル・ジョーダンをご存じでしょうか。彼はかつて、ある有名なテレビコマーシャルで次のように言ったそうです。「私は九千本以上シュートを外し、ほぼ三百試合で負けた。ウイニングショットを外したことは二十六回もある。」

 コマーシャルでわざわざ失敗した話をしたわけですから、それを見た多くの人は困惑したそうですが、失敗の大切さや、成功へのプロセスに失敗が欠かせないことを身に染みてわかっているジョーダンならではのエピソードです。どんな成功者もあこがれのスターも、そこに至るプロセスでは数々の失敗を繰り返し、悩み苦しんだ経験を経てきている。でも、その失敗で諦めることなく、希望をもってチャレンジを続けたからこそ、後に成功を手にすることができたわけです。

  その諦めない気持ちを持つコツこそが、苦しい状況でも希望を持ち続けることなのです。我々が生きる激動の時代は、待っていても先への希望など持たせてはくれないでしょう。それでも、希望を持つことさえやめなければ、皆さんの将来への道は必ず開かれます。

  浦定には、「浦定チャレンジ」という取り組みがあります。何かにチャレンジしてみようと思う。その前向きな意識が、まずは大事です。そして始めてみる、すなわち前に向かって第一歩を踏み出してみる。とにかく失敗を恐れず、何かをやってみるというチャレンジ精神こそ、皆さんの人生にとって本当に大事なことだと私は思います。浦定での生活で、自分で決めたいろいろなことに、是非ともチャレンジしてみてほしいと思います。

 

 もう一つは、「自分の頭で考えるための基礎を身に付ける」ということです。当たり前と思うかもしれませんが、ものを考えるという行為は、言語、つまり言葉を使ってなされます。つまり、考えることを可能にするには、それに必要なだけの言葉、語彙力がなければなりません。加えて、考えを深めるにはその分野の基礎知識がなければなりません。現代人が考える分野は、とても多岐にわたります。ですから、幅広い基礎知識を身に付けておくことも必要です。また、未知の分野に興味を持つこともあるでしょう。そのときのために、知りたい分野の情報を収集する方法もわかっておかなければなりません。皆さんには、これらのことを浦定にいる間に習得してもらいたいと思います。授業を中心にしっかりサポートしますから、安心してついてきてください。それから、深く考え正しく判断するには、日ごろから周りの人の話や意見をしっかり聞くことがとても重要です。自分の意見もしっかり聞いてもらい、議論をすることも大切です。コミュニケーションが大切だということです。では、周りの人と良好な関係を築くコツは何でしょう。それは、相手の良さを見つけることです。最近は、人を批判したり中傷したりする傾向が、特にSNS空間では強まっているようですが、それはコミュニケーションとは対極をなす行為です。皆さんには、まずは浦定の仲間とお互いの良さを認め合う、そんな関係を築いてほしいと思います。

 

 浦定は、少人数の教育環境を活かして、アットホームで一人一人としっかり向き合える学校です。加えて、地域の企業や自治会などと連携し、外の世界とも関わりながら社会で立派にやっていける一人前の大人になることを目指してもらいます。一人前の大人を目指すわけですから、浦定での生活においてもダメなものはダメです。あいさつをする、時間を守る、ルールを守るなどについて、浦定でも十分意識して生活してください。

 

 最後になりますが、保護者の皆様におかれましては、重ねて入学のお慶びを申し上げます。本日より、大切なお子さまをお預かりし、責任をもってお子さまの力をしっかり伸ばしてまいります。

  入学に際して、私からお願いがございます。高校生の頃というのは、様々なことに悩み葛藤する時代です。気持ちも揺れ動くものです。そんな揺れる思いを持ちながら成長していくのが高校時代だということをぜひご理解いただき、どうぞお子さまを温かく見守っていただきますようお願いいたします。

  私たち教職員は、浦定の教育に誇りをもって日々一生懸命取り組んでおります。是非、浦定の教育力を信頼していただくとともに、何かございましたら遠慮なくご連絡をいただき、家庭と学校とでお子さまの成長に向けて、歩調を合わせて取り組んでいけたらと思っております。何卒、御支援と御協力をお願いいたします。

 

 それでは、四年後の卒業式まで皆さんが浦定での生活を思い切り楽しみ、たくましい一人前の大人へと成長し、「浦定で高校生活を送れてよかった」と思っていただけることを心から願い、私の式辞といたします。

 

令和三年四月八日

埼玉県立浦和高等学校長 水石 明彦