校長講話

令和元年度卒業式式辞

卒業おめでとうございます。

 君たちのご家族や後輩も一緒になってお祝いしたかったので、このような縮小した形での卒業式に無念の情を禁じ得ませんが、私達教職員一同、心からの祝福とエールを込めて、君たちを送り出したいという思いでいっぱいです。

 

 改めまして、ただ今、卒業証書を授与いたしました、363名の皆さん、卒業おめでとうございます。

 皆さんは、この三年間、「尚文昌武」の旗印の下、勉学やスポーツ・文化活動に励み、心身と頭脳の鍛錬に全力で努めてきました。本当によく頑張りました。卒業生諸君とここにはいらっしゃいませんが。君たちを育ててくれた保護者の皆様に、心から祝意を表します。

 

 君たちの卒業に当たって、一言はなむけの言葉を送ります。

 我が国は、昨年、令和という新たな時代の幕が開けました。浦和高校を卒業する皆さんには、この令和の日本が希望と平和に満ちた国となるよう、自分自身の幸福を追及するとともに、世の中に大いに貢献する人になって欲しいという思いでアドバイスをしたいと思います。

 

 まず、最初に君たちに言っておきたいことは、とかく高学歴な人が陥りやすい「学歴エリート」にだけは、絶対にならないでくださいということです。学歴エリートとは、有名大学に入学することで満足してしまい努力をやめる人のことです。今の学歴社会は崩壊すると思っていたほうが賢明です。実際、「高学歴を身に付ければ世の中で活躍できる」というのは、すでに幻想になりつつあります。私の世代では、高学歴の人ほど、いい就職をし、そして、ほぼ間違いなくその組織の幹部として出世していきました。「勉強のできる人」イコール「活躍できる人」であったわけです。確かに、これからも高学歴の人間は就職に有利であるということ自体はきっと変わらないでしょう。しかし、AIが席巻する未来社会においては、「勉強のできる人」が就職した後必ずしも活躍できるとは限らない世の中になるのではないでしょうか。つまり、「勉強のできる人」が持つ資質、具体的には、「集中力・持続力」そして「豊富な知識と論理的思考力」のことですが、もちろんこの資質は、これらからも必要ですので誤解しないでください。「知識」と「論理」が必要ないとは言っていません。これは最低限のベースになります。私が言いたいのは、それだけでは活躍できない時代がやってくるということです。なぜなら、「集中力・持続力」は当然のことながら、「知識と論理」もAIが最も得意とする能力で、これらの能力だけで行える仕事は、急速にAIが人間を代替するようになっていくからです。

 それでは、来るAI時代にリーダーとして活躍し続ける人材とはどんな人材なのでしょうか。私はこの2年間、皆さんに「真のエリート」という表現を使って、そうなるために必要な心の持ちようについて何度か話をしてきました。ある時は「謙虚になること」であると言いました。要するに、人間うぬぼれたらそこで成長は止まるという意味です。それに関連して、謙虚な人間であり続けるための基本行動として、「自分から人に挨拶をする」挨拶上手になろうという話しもました。また、ある時には「公共心を持とう」と言いました。「公共心」とは、目に見えない、つまり今目の前にいない人への思いやりです。これらは、リーダーに必要な大切な資質です。今日は、これまでの話にもう一つ付け加えます。それは、「共感力」です。つまり、喜びや悲しみ、楽しさや苦しさ、友情や孤独といった生身の人間だけが持つ感情を共有する力です。どんなに高度なコンピューターであれ、機械には決して持てない能力です。私は、この共感力は、今までも大切でありましたが、これから「AI時代」を生きるリーダーの資質としては、これまで以上に強く求められるものであると思うのです。

 こう思ったきっかけは、10年ほど前に読んだ元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの著書「国をつくるという仕事」の中にありました。西水さんが「貧困のない世界を作りたい」との一念で、発展途上国のリーダーたちと丁々発止の議論をした、そのエピソードがつづられた本ですが、西水さんは、様々な国の権力者と対峙する中で、何人もの素晴らしいリーダーに出会っています。その出会いを通じて、素晴らしいリーダーに共通する点を見出しました。それは「真のリーダーとは、頭と心がつながっている人」そして、「真のリーダーシップの原点は、人々に対する共感である」という彼女なりのリーダー像に至ります。この本を読んだ当時、私は、駆け出しの教頭として感じていたことがありました。それは「理屈だけでは先生方は動かない。一人一人の先生に対するリスペクトと共感がなければ先生方は動いてくれない」という思いです。この本を読み終えたとき、まさに我が意を得たりの強い感動を覚えて、その後も繰り返し読み返しました。

 リーダーにとって、カリスマ性はあったに越したことはありませんが、でもそれは必要条件ではありません。もちろん、リーダーたるもの、決めるときには決める強さがなくては困りますが、現代のような多様な価値観がひしめく時代においては、様々な意見を取りまとめ、その意見を調整していく力が何よりも必須な資質に思えるのです。その基盤になるのが、一人一人の心に思いを寄せられる「共感力」です。ぜひ、君たちも、これからのリーダーにとって、「共感力」が一層大事なんだということを心にとどめておいて欲しいと思います。

 

 では、どうすれば「共感力」が備わるのでしょうか。これについては、多摩大学の田坂広志教授の言葉が参考になります。彼は、自著でこう述べています。

「共感力を身に着けるには、自分自身がたくさん苦労をすることである。なぜなら、自分自身に苦労の経験がなければ、何かに苦労している人に対して本当には「共感」できないからである。」さらにこうも述べています。「人生において我々に与えられる苦労や困難は、自分という人間を成長させるためものであり、その苦労や困難には、すべて深い意味がある。それゆえ、その意味を考えて歩むとき、われわれは大きく成長する。真のリーダーになるのであれば、その人生観こそ持つべきだ。」

この田坂教授の言葉をなぜ君たちに話そうと思ったか、それは、君たちであれば、実体験として心から理解できると思ったからです。

日頃の勉強の予習復習に加え、繰り返される早朝の小テスト。ただ、勉強の苦労であればほかの学校の高校生も、もしかすると君たち以上にしています。でも君たちは、勉強だけしていれば済む高校生活ではありませんでした。入学してすぐに10キロを走らされ、その2か月後には2キロの遠泳があり、そして、その後4か月足らずで50キロ競歩に挑んだ。わずか半年余りの間に、ほかの高校生は絶対に経験することのない苦しさを経験した。加えて、受験科目だけに力を入れていればいいのではなく、たとえば、芸術や家庭科は受験に関係ないなどと言って軽んじることが許されない学校風土、などなど。これらの苦労や困難、もちろん君たちはこれらを苦労とは思わずに、逆に楽しんでいた向きもありますが、これらを乗り越えたことで得られた成長を誰よりも君たち自身が感じているのではないでしょうか。

でもそれで満足してはいけません。君たちは、高校時代に様々な苦労をした経験という点では、他の高校生より一歩抜きんでいることは事実ですが、それで歩みを止めれば、直ぐに追いつかれ追い越されてしまうでしょう。是非、浦高での経験を基盤に、大学に行っても歩みを止めることなく、学問はもちろん、サークル活動やボランティア、あるいは、留学など、様々な挑戦を通じて苦労を重ねてください。そして世の中の多くの人と関わる中で、他人の苦しみにも思いを寄せてください。君たちの「共感力」は確実に磨きがかかります。それこそが「真のリーダー」、そして「学歴エリート」ではない「真のエリート」に近づく道だと私は思います。

 

 さあ、卒業生の皆さん、いよいよお別れの時です。皆さんは、我が母校浦高で、「無理難題に挑戦することの大切さ」を学びました。そして、その誇りと自信、「尚文昌武」の下で鍛えられた体、養われた徳性、そして磨かれた知性を礎に、将来皆さんは、人生の荒波を乗り越え、広き宇内に雄飛してくれるものと確信します。人生は一度きりです。好きなことを思いっきりやりなさい。そして、好きなことをやるためには多少の嫌なことも我慢してやりなさい。そして君たちの頑張りが、自分の幸せとともに他人の幸せのためにもなっていることに自負をもって生きてください。新しい時代は確実に若い君たちの時代です。その中軸となり、日本と世界をリードする人間となるんだという気概を胸に、前進し続けることを期待しています。

 浦高を巣立っていく皆さんの将来に限りない望みを託し、重ねて卒業のお祝いを申し上げ、式辞といたします。卒業おめでとうございます。

 

 令和二年三月十四日

 埼玉県立浦和高等学校長 小島克也