校長講話(定時制)

第73回卒業証書授与式

 暖かな春の陽射しが降り注ぎ、早くも桜の開花する季節を迎えました。この春のよき日に、埼玉県立浦和高等学校定時制第73回卒業証書授与式を、保護者の皆様のご臨席を賜り、挙行できますことに深く感謝申し上げますとともに、心より嬉しく思います。

 9名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんが浦定に入学してから四年間の歳月が流れました。その間、世界は気候変動など地球自然環境の急激な変化とともに、少子高齢化や地域間格差などがますます深刻化しています。AIをはじめとするデジタル革命とグローバル化が並行して、急激な進行を見せています。まさに「激動の時代」の真只中にあります。そして、日本は平成から令和へと、新たな時代を迎えています。

 

 ちょうど十年前の3月11日、日本は東日本大震災に見舞われました。十年ひと昔とはいえ、被災をされた方々の生活がすべて日常に戻ったわけではありませんし、心に残った爪痕はそうそう癒えるものではありません。震災からの完全復興への道のりは、まだまだ道半ばです。私たちはこの震災を決して忘れることなく、防災意識の更なる醸成や危機管理体制の整備はもちろん、人と人とのつながりの大切さとその暖かみ、共助の意識など、この震災から得た様々な教訓をこれからの世の中に活かしていかなければなりません。

 そして今、世界は新型コロナウイルス・パンデミックに見舞われています。世界がまさにつながっていることを、改めて誰もが実感させられました。新型ウイルスの発生という自然現象に端を発して、一人一人の行動を介して世界全体に感染が拡大するという社会現象が起きました。震災と同様に自然の脅威を再認識させられる事態であり、一人一人がグローバルな社会での責任を自覚することを迫られています。

 皆さんのこの一年余りの浦定での生活にも大きな制約が課せられ、せっかくの修学旅行や遠足も中止となりました。持って行き場のない不安や苛立ち、ストレスなどへの対処に、皆さんも苦労したことと思います。

 

 このような変化と制約の中でも、皆さんは保護者の皆様をはじめ、多くの方々の思いに支えられて、本日無事に旅立ちの日を迎えました。

 浦定での四年間の日々は、皆さんにとっても様々なことがあったことと思います。アルバイトとの両立に苦労したことや夜学ぶことの辛さを感じたこともあったかもしれません。欠席がかさみ進級が危うくなったこともあったかもしれません。

 日々の授業や給食、部活動での取組や様々な行事において、仲間とともに楽しみ、励まし合い、先生方からは時には強く説諭され、時には励まされ、皆さんは大きく成長したことと思います。この一年の様子を見ても、浦定という場で仲間への気遣いや下級生への気配りを見せながら、居心地よさそうに生活する姿には本当に感心しました。

 

 その皆さんも今日で浦定を卒業し、次なるステージへと踏み出していくことになります。そんな皆さんに、私からの最後のメッセージを贈りたいと思います。

  皆さんが生きていく現代は「激動の時代」であり、価値観が多様化した予測不能な世の中です。新型コロナウイルスによるパンデミックの先行きもまだまだ不透明ですし、パンデミック収束後の21世紀がどのような世界になるのかも全くわかりません。このような時代だからこそ大切なことは、自分の「思い」をしっかり持つことです。そして、「自分の頭で考え行動する」ことです。そのためにも「勇気を出して、まずは一歩を踏み出す」ことが何よりも大切です。 

 では、具体的にはどうしたらよいのでしょう。英文学者の外山滋比古氏の言葉を引いてみます。自分の頭で考えるようになるためには、「まずは体を動かすこと。そしてもう一つは、不幸とか、貧困とか、失敗とか、そういう辛い境遇から逃げないことだ。」

 

 これに関連することで、作家であり映画監督でもあるウディ・アレンは、若いアーティストたちへのアドバイスで、次のように言ったそうです。「人生で成功する秘訣の80パーセントは、めげずに顔を出すことである。」

 どういうことでしょうか。顔を出すとは、「まずは始めてみよ」ということでしょう。やらなければとか、やろうとは思っていても、なかなか始められない、取り掛かれないことって、皆さんも経験があるでしょう。物事を実際に始めてみる、取り掛かることは、結構難しいことです。そして、もっと難しいのがそれを続けること。でも、「めげずに顔を出すこと」が成功の秘訣である、頑張れと、ウディ・アレンはエールを送ったのだと思います。粘り強く努力を重ねればきっと成功する、ということです。

 

 もう一人、バスケットボール界の神様と呼ばれるマイケル・ジョーダンは、かつてある有名なテレビコマーシャルで、わざわざ失敗の話をしてたいへん話題となりました。「私は9000本以上シュートを外し、ほぼ300試合で負けた。ウイニングショットを外したことは26回ある。」

 これも、数多くの失敗を経たからこそ今の成功がある。誰でも成功したくて努力をするわけだが、そのプロセスでは失敗が欠かせない。そのことを、ジョーダンほどの成功者だからこそ、あえて声を大にして言いたかったのではないでしょうか。

 

 どんな成功者も、多くの失敗を経験する道を必ず通ります。皆さんも、勇気を出して、まずは一歩を踏み出すことです。

 

 最後にもう一つ。今年の大河ドラマの主人公にして新一万円券の顔となる、埼玉ゆかりの三偉人のひとり、渋沢栄一が残した言葉に、「交際の奥の手は至誠である。理にかない調和がとれていればひとりでにうまくいく。」というのがあります。キーワードは「至誠」、つまり「誠実」であることです。

 物事に打ち込むうちには、失敗や挫折もある。迷うことも、悩むことも、落ち込むことも当然ある。やる気で始めた仕事でも途中で辞めたくなることもあるかもしれない。先が見えなくなりそうになることも、長い人生では度々あるだろう。でも、「誠実」でさえあれば、物事はいずれ必ずや自然と上手くいくものである。そう信じて、「浦定チャレンジ」の気概を持って、たった一度の人生を、価値あるものに創り上げていってもらえればと思います。

 

 最後になりますが、保護者の皆様におかれましては、ご子息のご卒業、誠におめでとうございます。重ねて心よりお慶びを申し上げます。四年間の浦定生活を全うし、心身ともに大きく成長した卒業生諸君の姿を前にして、とても頼もしく思います。

 この四年間、本校の教育活動につきまして格別のご支援とご協力をいただき、誠にありがとうございました。できますれば、今後とも浦和高校に対する変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

 

 結びに、卒業生全員が、社会で自立した一人前の立派な大人として、前途洋々たる人生を歩むことを心より期待して、私の式辞といたします。

 

令和三年三月十六日

埼玉県立浦和高等学校長 水石明彦